飲み物やケーキを持ち帰る際には、容器を持って行かなければならないカフェ「Earth Us」。様々な容器を持って行きSNSにアップするという楽しみ方が利用客の間で定着したが、こういったルールを維持していく中での苦労や悩みを聞くことができた。持続可能な地球を想う気持ちから始まったカフェの挑戦と成長の記録。そして最も重要でありながら難しい、考えたことを実践に移す旅。おいしくて安らぎを感じることのできるカフェを通して、その旅の始まりを案内してくれるEarth Usのキル・ヒョンヒ店長を訪ねた。




<Chapter1. Love Earth, Love Us>

Earth Usはどんなお店ですか?「手間がかかるお持ち帰り」という言葉を使われていますが、どのようなお持ち帰りのことでしょうか?

Earth Usは基本的にお持ち帰りができない、おかしなカフェです。お客さんの利便性のためにお持ち帰りできることが一般的じゃないですか。なので「お持ち帰りに手間がかかる」という言葉は、ある意味辻褄が合わない組み合わせかもしれないんですが「他のカフェより手間をかけて持ち帰らなければならないところ」という意味で「手間がかかるお持ち帰り」という言葉を造りました。強いメッセージ性を込めたというよりも、私たちのカフェではお持ち帰りができないということをどのように伝えるか、そして私たちがやっていることに関心を持っていただけるかと考え、このようになりました。

 

Earth Usという名前にも意味がありそうですね。

Earth Usは「For Earth, For Us」または「Love Earth, Love Us」という意味で、「地球を想うことが私たちを想うことだ」という意味を込めた名前です。私は大学で広告学科だったんですが、当時コピーライターやブランドネーミングの仕事をしていた先輩の特別講義がありました。その時に初めて知った方だったんですが、いろいろと有名な名前を手掛けられていました。キムチを代名詞化させたホン・ジンギョンの「The キムチ」もその先輩が手掛けたものなんですよ。私もいつかはブランドを作ろうと考えていたので、その先輩が教えてくれた通りにいくつかの単語を書き出し、私が意味を込めたい単語、そして言いやすい単語を組み合わせていく中で「Earth Us」という名前が出てきました。ということは、学生の頃からEarth Usというカフェを考えていたのですか?

その時はカフェについて全く考えていなくて、最初は公益広告や社会的な企業に入りたいと思っていたんです。そして学生の時に広告を学んだので、媒体を通してなにかメッセージを伝えたいと思っていました。私はもともと環境に関心がありました。それにコーヒーもすごく好きだったんですよ。なのでコーヒーと環境に関連したメッセージを伝えてみようと思い、学生の時にEarth Usという概要を先に作っておき、その結果コーヒーを通して環境に関するメッセージとイメージが出来上がりました。


Earth Usにおけるカフェの哲学や原則はありますか?

まだ哲学はよく分からないですね。原則があるとしたら、みなさんご存じだと思いますが使い捨て用品を使わないこと。これが一つめの原則で、二つ目はおいしいコーヒーとデザートを作ることだと思っています。

使い捨ての容器でお持ち帰りを希望したお客さんをお断りしたことについて、Instagramで熱い論争がありましたよね。当時どんな状況だったのか、詳しく聞かせてもらえますか?

お客さんがお店に来る際、環境にやさしいコンセプトに惹かれて来るというよりは、味を求めて来る方が多いと思います。私たちが環境に関することを強調していれば、環境に関心がある方達はお店に足を運んでくれると思いますが、私たちのターゲットはより広い範囲の人達でした。私はカフェを始めた当初は、環境についてのキャンペーン的なものではなく、他の一般的なカフェと変わらない感覚で訪れてほしいと思っていました。味もさることながら、環境も考えているカフェだということをもっと知ってほしいなと思うようになったのはその後からです。カフェの前にも、そのような説明が書いてある看板や案内はないんです。なので、初めは意図した通り様々なお客さんが足を運んでくれました。ですが当然私たちのコンセプトを知った上で足を運んでくれるお客さんだけではないので、使い捨て用品を「再利用する」と言ってお持ち帰り用に持って来たお客さんをお断りしたり、Earth Usでのお持ち帰りのためだけに、繰り返し使える容器を新しく購入されるお客さんもいました。「これが本当に環境にやさしいというコンセプトに合っているのか」、「お客さんの立場から見ると一度くらいは大目にみるべきだったのでは」などの論争がありました。私も予想できなかった出来事だったので、複雑な心境でした。実を言うと、最初の頃はそのような容器を持って来ても対応していたんです。それをどこかで見た人がいたのか、カップラーメンの容器を持って来て「持ち帰りたい」と言うお客さんもいました。使い捨て用品の再利用を許してしまうと、様々な使い捨て用品が存在するので、それがどんな結果を引き起こすのか想像もつかない状況でした。信じられないような容器を持って来たお客さんがいて、きっぱりとお断りしたんですが「どうして客を差別するんだ」と言われたことがあり、改めて運営しながら例外を作ってはいけないということに気づきました。一度気づいてしまえば、今後同じことが起きたとしても「原則を破ってでも対応するべきかどうなのか」という考えに至らないんですよ。正直なところ正解は自分でもよく分からないです。時間が経てば、どうすればいいのか分かる日がくるんですかね?

商売をする上でお客さんをお断りするということは、店長として本当に難しい決断だったかと思いますがすごいですね。Earth Usでのお持ち帰りのために繰り返し使える容器を新しく買う方もいるとおっしゃっていましたが、それはかえって不要な物を買うことなので、環境にやさしいという原則に反することではないでしょうか?

足を運んでくれるお客さんのほとんどは家にある容器を持って来て下さりますが、新しく買って来るお客さんもたまにいらっしゃいます。中身が少し残った容器を持って来て「洗ってほしい」と話すお客さんもかなりいました。私たちのカフェで買うために新しく買って来ることは、おすすめしない方法です。「容器がなければお持ち帰りできません」とはお伝えしても、「近くのお店で買えます」という案内は絶対にしません。それでもそのようなことが起きるのであれば、私たちのカフェでの経験から、今後この容器はEarthケーキやデザートを入れる専用の容器として次回もこちらで使用していただきたいですし、そういった考えがお客さんに生まれていけば、そこには意味が出てくるんじゃないかという考えを持つようになりました。


昨年、Earth Usにクリスマスケーキを買いにきました。その時、充電して使用できる電気ライターを説明してくださったことが印象に残っています。環境を考えてカフェで実践していることは他にもありますか?

まず、固形洗剤と天然の食器洗いスポンジを使っています。ベーキングする時に使い捨て用品がたくさん使われるんですが、どうすれば使い捨て用品を使わず作れるか考えて生まれたメニューが、レアケーキでした。使い捨て用品を全く使わずに作れるんです。うーん、その他にもいろいろありますが全部話すとなると大変ですね。私は当然のようにやっていることなんですが、どれが環境のためにやっていることなのかを思い出すのは難しいです。パッと思い出せるのはこれくらいです。あ、シリコンラップも思い出しました(笑)

小さな実践の積み重ねが暮らしの日常になるというのは、難しいことですが重要ですよね。カフェのお客さんで、記憶に残っているお客さんはいますか?

常連のお客さん達が私にとって一番好きなお客さんで、記憶に残っているお客さんでもあります。これからも会えたらいいなと思いますし、何度会っても嬉しい方々ですね。他に記憶に残っているお客さんは、変わった容器を持って来た方ですね。変わった容器で写真を残そうとする方を見てると、不思議でもあり、ありがたくもあって記憶に残っています。それでも一番に思い出すお客さん、記憶に残っているお客さんは常連のお客さんですね。


変わった容器というのが気になります。

救急箱です。救急箱を持って来て、その中に入れて欲しいと言われたことがあります。あとヨンナムドン(延南洞)にカムジャタンのお店があるんですが、カムジャタンを食べている途中にケーキが食べたくなったみたいで、カムジャタンのお店の容器を持って来たお客さんもいましたね。カムジャタンのお店に戻ってデザートで召し上がったそうです(笑) 他には蒸し器や炊飯器などを持ってきた方もいました。

逆に、店長を困らせたお客さんはいましたか?

思い浮かぶお客さんがいます。「私たちは使い捨て用品を使わないので、洗って再利用ができる容器を持って来なければならない」と再三同じ案内を繰り返していると、私たちも機械的に話してしまったり、すべての情報を詳しく案内することができなかったりもしてお客さんが聞き流してしまったりすることがあります。その当時、手ぶらで来たお客さんが「持ち帰りができる容器を持って来ないといけない」とだけ理解してしまって、違う所で使い捨て用品を買って来たんです。ヨンナムドンの向かいのスーパーで買った使い捨てのアルミホイルでした。「申し訳ないですが、使い捨て用品にはお入れすることができない」とお伝えしたんですが、お客さんはものすごく怒ってしまいました。本当に困ってしまいましたね。このカフェの運営方針とはいえ、私がお客さんの立場だったら気分が良くないなと思いました。それからずっと気にかかっていたんですが、少し経ってそのお客さんがまた足を運んでくださって、カフェで召し上がっていただけました。本当にありがたくてフルーツを持って行って「お越しいただきありがとうございます」とお伝えしたことがあります。その後も定期的にいらっしゃるようになり、常連さんになったんですよ。気分が良くないまま帰られることがあると気にかかってしまいますが、また来て常連になってくださることほど嬉しいことはありませんね。


<Chapter2. カフェの本質:おいしいカフェ、安らかな空間>

なぜ多くの人がEarth Usに足を運ぶと思いますか?

こう話すと少し生意気に聞こえるかもしれないですが、おいしいからだと思っています。お金を払って食べるものなのに、おいしくなければ食べたくないですよね。私たちが作ってるケーキのほとんどがガツンとしたものなので、そういうケーキが好きでない方は一口食べて残す人もたまにいます。でも自分の好みにぴったりだと、気に入ってくれる人も多いです。それプラス、環境的なことも考えているカフェなので、好意的に思ってくれているのではないのかなと思います。


ちょっと意外です。私もEarth Usのケーキは大好きなのですが、ほとんどは環境にやさしい運営方針ゆえに、足を運ぶお客さんが多いと思っていました。

カフェを続けるためにはお客さんのリピーター率がとても重要なんですが、環境のコンセプトに興味を持っていらっしゃるお客さんのほとんどは、その一度きりになることが多いです。なぜなら、このカフェがなにかしらのグッズを売っているわけではないからです。それと、環境に関心があるお客さんにカフェという空間が必要なのであれば、正直他のカフェでも使い捨て用品を使わずに利用できるからです。なので一度足を運んでくれたお客さんが、リピーターとしてまた来る理由は味なんだと思います。環境うんぬんは、付加価値的な要素だと思いますね。結局ここはカフェという空間なので。

メニュー開発はどのように行なって、作り方はどこで学んだきたのかも気になります。

私はコーヒーがすごく好きで、大学1年生の時にバリスタの資格を取ってそれから7年間カフェで働いていました。なのでコーヒーやドリンクのメニュー、レシピは決めやすかったです。でも私はデザートがあまり好きじゃなくて、他のカフェでもデザートをあまり食べなかった人なんです。どのカフェに行ってもデザートに満足したことはなかったんですが、カフェを始めるにあたって今度は私がケーキを売らなければならない状況になった時、「他のお店からケーキだけ持って来よう」と考えていました。でも問題は、大量に保管するためには大きな冷蔵庫が必要だったことです。もう一つは、ケーキを配送してもらう際、大体箱に入ってきますよね。その箱や、不必要にたくさん買わなくちゃいけないものがあるってこと自体少し面倒に感じました。なので、販売するケーキを1日に10個くらい自分で作ってみようと思ったんです。YouTubeを参考にして、おいしそうだと思った材料を入れて生地から作ってみたら案外美味しくて。最初にテストしてみた結果が良かったので、そこから砂糖を少し減らしたレシピで今も作り続けています。カフェを始めたのは2017年でしたが、その時はまさかケーキがこんなにも人気になるなんて思いもしませんでした。


ケーキは毎日どのように準備していますか?また、お店で買う方法を教えてください。

9時に出勤してケーキを作り始めます。12時にオープンして、当日生産・当日販売を行っています。最近は平日18時までオープンしているので、30個くらい作っています。バスクケーキはもう少し多めに焼いていますかね。少しずつ増えていっています。ほとんどのケーキが午後には売り切れるので、必ず買いたいという方は前日までに予約をいただいています。予約をしないと買えないわけではありませんので、もちろんカフェに直接来られて買うこともできます。

スタッフは何人いますか?どのようにして一緒に働くようになったのかお聞かせください。

スタッフは私を含めて9人で、大学で同じ学科だった同期の1人以外はアルバイトの求人募集をかけて一緒に働くことになりました。カフェの空間が気に入って来たというスタッフもいますし、環境に関心があって来たスタッフもいます。でも私は、求人していることをあまり大きく公にはしたくないタイプなんですよ。もともとこの店のファンだったという人でも、内部に入ってしまうと失望することもあるからです。私たちは仲良くなるためではなく仕事をするために集まったわけで、いざ仕事となると思っていたものと違うと感じてしまうかもしれないと思いました。私は真剣に職を探している人を求めているタイプだったんですが、なかにはEarth Usについてある程度知っていて、好きだから応募するという人もいます。その思いを一生懸命履歴書に書いてくれるんですが、結局は実際に会って話をして、この人がどんな人なのかを会話の中で知ろうとします。私は誠実で、神経質すぎず、正直な人が好きみたいです。

 

ヨンナム(延南)店に続きソチョン(西村)店がオープンしましたが、ソチョンに決めた理由はありますか?

ヨンナム店に続きソウルに支店をもう一つ出したいと思っていて、2号店はどこが良さそうか悩んでいたときプサン(釜山)からコンタクトがあったので、まずはプサン(釜山)店をオープンすることになりました。ソウルとプサンで半々ずつ暮らすようになったんですが、やっぱりソウルが恋しくて… その中でもプサンにはないハンガン(漢江)や、古宮の壁などが恋しくて見たくなりました。なのでソウルに行ったらチョンノ(鐘路)に行こうと思い、ソチョンで「eeum(日用美 而已广)」というカフェに行ったんです。大好きなところで楽しみにしていたので、オープン前に向かいました。そしたらいつの間にか不動産屋さんを覗いている自分がいたんです。不動産屋さんの方にこういう空間の物件がいいと話したら、建物のオーナーさんに電話してくれました。タイミングよくオーナーさんがそこにいらしたので、すぐに見に行ったんですけど、今のここの空間を見て一瞬で惚れ込んでしまいました。

具体的にこの空間のどんなところが魅力的でしたか?

最初は何もないので物寂しい感じはありました。中庭があるんですが、長い間放置されていたので床には緑色のコケもたくさん生えていました。そして隣の家と分けるために建てられた塀の上の木の防音壁が、古くなって崩れた状態だったので廃屋みたいでした。それを踏まえた上でもすごく気に入りました。ソウルのど真ん中にいながらも、休暇に遊びに来ているような気分になれましたし、ここにいるだけで癒されたんです。ただ一つ残念だったことは、窓が小さいので日当たりがあまりよくないことなんですが、それでもよかったです。


<Chapter3. 持続可能な地球のための当然な歩み>

持続可能な地球を作るための過程は、なぜ必要なのでしょうか?

幼い頃、科学を想像して絵を描いたことはありませんか?私の場合は、地球では生きることができなくて、地を掘って生きたり空で生きたり、または宇宙に飛び立つことを想像していました。科学について詳しくはないのですが、地球は科学の発展するよりも早く衰退していると思っていました。私は時間があれば環境に関連したワークショップに行っているんですが、行く度に涙が出ます。「大変なことになっているんだな。もう地球を元通りにすることはできないんだな」といつも考えます。もともと地球というのは、もっと南極と北極の白い部分が多くないといけないんですが、今では減ってしまい海水面も上昇しています。去年の夏は台風もひどかったですよね。だんだんと人間が生活しづらい環境になってしまっているんです。難民は増え、貧富の差もより深刻になっていくと思われます。このような問題がとても恐ろしいです。「スペース・スウィーパーズ」という映画があるんですけど、ご覧になったことありますか?その映画も環境問題から始まるじゃないですか。私はその映画を観ながら、心がもやもやしました。「2092年の地球はあんなに衰退している可能性が高いのに、科学の発展はそれほど進まないのでは。」と思ってしまっています。私はこれからもある程度生きてこの世を去るので、自分だけのことを考えるとあまり関係ない話なのかもしれません。でも問題は私たちの次の世代なんです。自分や自分の家族のために、もっと環境について考えるべきだと思います。幼い頃「いつかは飲む水を買う時代が来るかもしれない」という話をよく聞いていましたが、すでに水を買っているじゃないですか。私がおばあちゃんになったときには、酸素を買うことが当然の世の中になっているかもしれないんですよ。もう時間の問題かもしれません。これは「地球のため」という言葉を使ってすごく良い意味に聞こえているのかもしれないんですが、本当は自分自身のためにもするべきことなんだと思っています。


自分や次の世代のための努力、とても共感できる言葉ですね。最近では環境にやさしいこと、ゼロウェイストへの関心が高まっていますが、これからどんな変化があると思いますか?

良い点もあり、心配な点もあります。私が幼い頃は、屋内でもタバコを吸えました。今では「屋内での喫煙はマナー違反」という常識が通じますが、最初に屋内禁煙が施行されたときは反対する人が多かったんです。環境問題も、私たちが正しいと思うことを粘り強く伝えていけば、いつかは常識として通じる日が来るのではないかという期待もあります。一方で、反対する人の声も大きくなるのではないかとも思います。「中国やアメリカの動きがあるからやっても意味がない」などとよく聞きますよね。毎回のようにコメント欄などでも目にする言葉です。そのような反対の声がこれ以上大きくならなければいいなと思いますし、環境への取り組みが一時的な流行みたいにならないでほしいです。あと、政権が変わるたびに法が変わらなければいいなとも思います。環境に関する規制があると企業が嫌がるので法を変えるのかもしれないですが、そうじゃなければいいなと思いますね。

 

店長の暮らしの中で環境に関する心配や関心、そして実践に移すまでの何かきっかけがあっタノではないかと思います。

いつからかは分かりません。でも学生の時から他の人に比べたら環境問題を考える方だったと思います。私の祖母もティッシュを使ったら乾かしてもう一度使っていましたし、両親からも節水するようにいつも言われていました。経済的な理由もあったのかもしれないですけどね。そうした中で、私も水やシャンプーなどを無駄遣いしない人間になりました。小学生の時に宿泊行事がありますよね。そこで友達がシャンプーを2回も3回もポンプして使っているのを見て、ショックを受けたこともありました。他には、初めてカフェで働きながら多くのプラスチックカップが捨てられるのを見て、家に持ち帰って鉢植えにしたり、下着用の収納を作ったりもしました。でも毎日出るゴミが多すぎて全く使い切れませんでした。なので、老後にリタイアして静かな所にカフェをオープンしたら、ラッピングができないカフェを開こうと考えていたんです。それが21歳の時だったと思います。そして大学生の時に韓国第1号のグリーンデザイナーと呼ばれているユン・ホソプ教授の特別講義を聞きました。教授は家に冷蔵庫がなくて、作業部屋でも電気を使わないそうです。講義を聞きながら、私も環境に関心を持っている人間としてどういうことを実践できるか考え、その時からいつもタンブラーを持ち歩くようになりましたね。少しずつできることを探しながら実践していました。


少しずつ自分ができることを実践していくことが大事ですよね。カフェ以外で個人的に環境のために実践していることはありますか?

私はおやつが好きなんですが、お菓子やアイスクリームを食べる時以外は使い捨て用品をほとんど使っていないですね。あとはハンカチを使うことや、固体洗剤を使うといったことが思い浮かびます。竹の歯ブラシ、生分解フロス、買い物かごなどもありますね。デリバリーの料理はあまり食べません。食べたいときは容器を持って行ってテイクアウトしたりお店で食べます。あとは何ですかね?一つずつ変えていきました。実はこの間も同じ質問をされたんですが、いざこう聞かれると何が特別に実践していることなのか、意外と思い浮かばないんですよね。スタッフに私たちが例えばどんなことを実践しているのか聞いてみると、ベーキングする時のシリコンラップ以外は使い捨て用品を使っていないことなど、いくつか話してくれました。一人暮らしというのもあって「私はいろいろな試みをしています」、「不思議な習慣ですよね?」などと言うには、あまりにも私の中で当然なことになっているんです。

 

環境についてもっと考えるべきだということに、共感できない人もいると思います。人々の環境に対する理解を高め、認識を改善するためにどんな努力ができるでしょうか?

まずは関心を持つ。それだけでも一歩踏み出したと言えると思います。関心があれば実践できることを考えるようになるので、簡単ではありませんが、少しづつ自然に努力するようになります。環境について少しでも関心がある人なら、自分ができることを決めて実践し、それを一つずつ習慣として増やしていけばいいと思います。逆に、反感を持っている人もいますよね。そのような人に強要はしません。実践しやすいことを見せて伝えることはできても、選択は自らがすることだからです。私がこのカフェを運営していることを知っている知人も、使い捨て用品を使ったプレゼントを買ってきたり、「帰って来る頃にデリバリーを頼んでおくね」と私に言ったりもします。私がその人たちに先ほどのような話をしたら、「変えなきゃいけない」と考えるでしょうか?かえって嫌がるかもしれないんですよ。本当に必要だと思って努力することに共感する人もいますが、「いつか死ぬんだし、ただこうやって楽に暮らそう」と考えている人も多いみたいです。そう考えている人に対してどういったアプローチをすればいいのかは、まだよく分かりませんね。

 

<Chapter4. 好きな仕事は暮らしの延長線、キル・ヒョンヒ店長>

キル・ヒョンヒという人は、どんな人ですか?

上手くは言えませんが、与えられたすべてのことを一生懸命こなす人です。 


Earth Usのカフェを運営する前は、どんな仕事をしていましたか?

広告会社で企画の仕事をしていました。「自分の仕事のこととなるとできない」という意味の言葉がありますが、スタッフから「どうしてニュースや記事を上げないのか?」、「材料がなくなったとアップするべきじゃないのか?」、「せっかく広告学科を卒業したのに、こんなに良い媒体を使わないのか?」などと聞かれます。でも私の性格上、他の人のものはPRできても、自分のものを上手く売り出すというのが難しくて。私もやらなきゃとは思っているんですが、自分のものとなるとやっぱりできないですね。


休みの日にはどんなことをしながら時間を過ごしていますか?

今はほとんど休みがありません。休みがあれば、もっとプラスアルファとして細かな部分に気を遣えるんですが、カフェで力を使い切ってしまいます。「カフェはゆったりしていて体力的にも疲れない」と思っている方が多いですが、実は本当に大変です。営業している時間よりもはるかに多くの時間をここで仕事しています。一日中立ったまま仕事して、食事もとれなかったりします。これからはスタッフにもう少し教育をして、自分の時間を持とうと思っています。

 

今は休みがないので趣味なども楽しめなさそうですね。もともとしていた趣味はありましたか?

もともと陶芸をやっていました。6ヵ月くらいソウルでやって、プサンに行ってからも1年くらい一生懸命やっていました。陶芸をやると、このカフェの空間にも行かせるんじゃないかとも考えて、趣味としてだけではなくEarth Usのためにもやろうという気持ちで一生懸命、そして楽しくやっていました。ソウルに戻ってきてからはできていないですが、そろそろまた始めたいです。私が通っていた工房で作られた食器がカフェにあるんですけど、その中には私が実際に作ったものもあります。

店長にとって仕事は暮らしの延長線にあるみたいですね。それほどカフェへの情熱が熱いんだと思います。最近の個人的な悩みなどはありますか?

このインタビューで話してきたような問題について悩みます。私たちはこの道が正しいと考えて最善を尽くしていますが、誰かにとっては気が引けることなのかもしれないんです。最初はメンタル的に辛いこともありましたし、悔しかったです。理由もないのに悪口を言われているような気分でした。そんな中、私が好きなブランドの店長がDMを送ってくれたんですが、「商業という囲いの中でいくら良いことをしようとしても、こういうことは起きる」と話してくださり、「このようなことを経験することで、より人としても強くなれる。だから悲しまないで。」と話して下さりました。私だけじゃなく誰もが経験する状況なんだと考えられるようになってからは、前ほど悔しくありませんでした。実を言うとそれまでは、ものすごく怖かったんです。応援してくださる方も多かったですが、私宛に届く長文のメッセージが本当に怖くて。こういったことから対人恐怖症に陥る方がいるんだろうなとも思いました。その時は本当に辛かったので、私自身もとても暗かったですね。2週間くらいある掲示物に関してコメントが付き続けて、非難するようなコメントもあったのでコメント欄を閉じたら、今度はDMが来るようになりました。辛くて傷つくような状況が続いたんですが、時間が経つにつれて淡々とした気持ちで受け止めれるようになり、今ではもう平気になりました。今でも少し悩んだりすることはありますが、私が間違ったことをしているとは思っていないので、方法を変えることよりも正しいと思っていることを続けていくことが答えなんだと思っています。


毅然として正しいと思うことを一生懸命される方で尊敬します。カフェを始める前の自分に何か言いたいことはありますか?

「もっと遊んで、もっといろいろな所で仕事してみて」 会社勤めをしてると少なくとも一週間に一度は必ず休めますが、自分のブランドを始めると休みの日も返上しないといけない時の方が多いんです。若くから始めたので大変だったことも多く、社会経験があれば堂々とできた部分が多かったかなと思います。社会経験を積んでから始めていれば、大変だったことも少しは上手く解決できたんじゃないかなとも思います。会社でもレストランでもカフェでも、どこでもいいのでもっと他の仕事を経験してみればよかったなと思います。

でしたら、個人的にEarth Usを運営しながら得たものと失ったものは何ですか?

得たものはたくさんあります。一番大きなものはやっぱりブランドですね。失ったものは、好きな人たちと過ごせる時間です。


それでも昔に戻れたとして、カフェを運営しますよね?

大変な道のりを知らないまま戻ったとしたらまたやると思いますが、知っている状態で戻ったら悩むと思います。もちろん始めるとなったら一生懸命やりますが、大変なことが多くて。家族と時間を過ごせないこともそうです。親戚に会ったのもずいぶん前です。今のように働くというのは、少し悲しいことなのかもしれないです。「ブランドへの欲」というのがここから離れられない一番大きな理由なんだと思います。でも本当に誇らしく思っていますし、満足もしています。その他に良いことといえば、誰も年を取りたいとは思わないですよね。私も年を取りたくはないんですが、私のブランドが年を重ねていくっていう面ではとても嬉しいんですよ。以前は、コーヒーにもデザートにも空間にも自信がなくて不安でした。でも今では「お客さんが来てくれている」事自体、自分はよくやっているんだと受け止めています。長続きすることが一番良いですよね。

 

Earth Usがもたらす影響力は大きいと思います。Earth Usがお客さんにとってどういう存在になってほしいですか?

「そのカフェ素敵な空間だよ」と言ってもらいたいです。どんな影響力をもたらすべきか、という考えはまだありません。私自身が使い捨て用品を使うことに気が引けるので、私がしたいようにやっているだけです。影響力を望んでいるなら、家族にも直して欲しい部分を指摘しているはずです。そうではないので、私の家族もいまだに紙コップを使ったりしますし、テイクアウトも利用します。私の知人も、私と一緒にいるときは多少注意してくれていますが、私といないプライベートでは完璧にはできていません。環境への配慮が私にとって楽だからといって、相手も同じだという考えは間違っているじゃないですか。なので、特別な影響力をもたらしたいとは思わないですし、そういう欲を持ってはいけないと思っています。

ご回答ありがとうございます。お話を聞いているうちに、自分が恥ずかしくなってしまいました。他人を変えようというよりは、自分が正しいと思えることを一つずつ実践していくという考え方に感銘を受けました。他にも環境にやさしいお店やカフェを準備してる人がいるとしたら、伝えたいことはありますか?

マーケティングの手段として、環境を利用することも悪いとは思いませんが、それより実際にどういったものが環境にやさしいのかを知るべきなんだと思います。たまに「Earth Usのお陰で環境にやさしいカフェをオープンしました」とタグ付けしてくれたり、メッセージを送ってくれたりします。そのカフェは私たちのように「再利用できる容器がないとテイクアウトできない」というものではなく、「生分解可能な物に変える」というものでした。少しでも勉強すれば、生分解が環境に大きな副作用を及ぼすことが分かります。なんでもかんでも生分解が良いというわけではないんです。生分解ビニールが、土の中で100%生分解されるという研究結果があまりない現状であり、全体の30%だけ生分解されるとしても生分解マークが付与されます。土の中には今も細かいプラスチックがあると言われていますよね。これらのものがどういう副作用を及ぼすか分からないので、少し勉強してみると生分解も使ってはいけないという考えに至るはずです。また、再利用の混乱という側面もあります。細かく考えずに分別して捨てているので、プラスチックもしくはビニールゴミとして捨てますよね。そこに生分解プラスチックが混ざっていると、一緒に入っていたプラスチックがリサイクルできなくなってしまいます。なので本当に環境にやさしい方法をそれぞれがもっと探してみてほしいです。


最後に店長の一言!

環境にやさしい行動は、多くの人が思っているほど不便が多い生活ではありません。自分にできることを少しだけ実践してみると、それほど難しくないということが分かるかと思います。あまり難しく考えないでほしいですね。




大きな影響力で、人々の認識を改善するミッションを期待していた。もっと言ってしまえば、環境にやさしいというコンセプトをマーケティング手段として利用している程度だと考え、インタビューに臨んでいた。しかしご覧になった通り、インタビュー前に予想していた答えは聞けなかった。Earth Usは地球の生態危機の中、間違った生活習慣が自分にとって心苦しさを感じるため、できることから一つずつ改善しようとしているだけである。重要なことは、恥を知り己を省みる「恥有りて且つ格る」の心持ち。もちろん恥を知り行動に移すためには、間違った習慣を直していく心の勇気が必要である。Earth Usの素敵な真心が込められた一歩は、私たちに大きな勇気を与えてくれる。





INTERVIEW DATE / 2021. 02. 24

INTERVIEWEE / @earthus

INTERVIEWER / Hye, Wan

文|西村遊戯         写真|西村遊戯

© YOOHEE.SEOCHON この記事の文章や写真を無断で使用することはできません。 コンテンツ活用に関するご要望やご質問は yoohee.seochon@gmail.com までご連絡ください。