良い靴は、良い場所へと導く - どんな足にも合う靴など無い
通りを歩いていると、ふと目に留まるような路地があります。細い道に沿って黙々と進んでいると、興味を惹かれる空間が一つ、また一つと現れます。「パーラー(PARLOUR)」との出会いも偶然がもたらしたのかもしれません。「バーバーショップ(BARBERSHOP)」はファッション好きの間では有名なセレクトショップです。2015年に姉妹ブランドとして「パーラー(PARLOUR)」を立ち上げました。「バーバーショップ(BARBERSHOP)」は2019年の3月にヌハドン(楼閣洞)にあった店舗をチャンソンドン(昌成洞)へ移転し、営業を続けています。革靴マニアの間では有名なオールデン(Alden)やバーウィック(Berwick)、ヴァ―シュ(Vass Shoes)などの「パーラー(PARLOUR)」でしか出会えない特別なブランドの革靴を試着し、購入することができます。ハノク(韓屋)と革靴という一見変わった組み合わせの中で、独自の基準で選定した製品を提供する「パーラー(PARLOUR)」ならではのこだわりをお聞きしたいと思います。
「パーラー(PARLOUR)」を立ち上げたきっかけはなんですか?
「バーバーショップ(BARBERSHOP)を立ち上げて9年になります。 特定のコンセプトに沿って商品を選定する『コンセプチュアルストア』なんですが、トレンドの変化はすごく敏感で、3年もつブランドは多くありません。それは私たちも同じです。それでも本来のコンセプトを維持しようと努力をしているセレクトショップなんですが、ほとんどのショップはコンセプトを変えてきたんですよね。パーラーはそんな状況の中、新たに立ち上げたお店です。新しい活路を拓きたかったのですが、だからといってコンセプトを変えるようなことはしたくありませんでした。」
「もともと靴が好きだったんですよ。古典的なスタイルで、作り方も昔ながらの革靴。まだオンラインストアすら無かった時代でした。気に入った靴を見つけると、海外に拠点を置くブランドの本社にメールを送って取り寄せたりしていました。靴に対する愛情をきっかけに『バーバーショップ(BARBERSHOP)』を始めたんですけど、『パーラー(PARLOUR)』もまた同じ理由で始めました。」
「パーラー(PARLOUR)」という店名の由来をお聞かせください。
「ヨンナムドン(延南洞)に行くと、ナクランパラ(楽浪パラ)という喫茶店があるんですよ。『ナクラン(楽浪)』という漢字に『パーラー(Parlour)』から音を取ったものを合わせて表記しているんですよね。『パーラー(Parlour)』という単語は、アメリカではお店という意味でよく使われているんですが、イギリスでは一軒家、応接室という意味で使われます。私の中での『パーラー(Parlour)』は『サランバン(韓国の伝統家屋でよく見られる、お客をもてなす交流の場)』なんですよ」
「デパートはアクセスも良いですし、サービスだって優れています。でもデパートでは味わえないようなものがいくつかあると思いました。落ち着いた空間の中で、気の向くままに好きな靴を履いていただき、靴の専門家だからこそできるサービスをご提供する。お茶も出しますし、煙草だって吸えます。男性にとってこんな場所は中々ないんですよね。男性のための完璧な空間を創り上げたかったというのが本音です。
もう片づけてしまったんですが、一時期はお客さんにお酒を振舞っていました。でも、韓国の方々にはなかなか受け入れていただけなくて。そうして『パーラー(PARLOUR)』という店名をつけました。」
ハノク(韓屋)と革靴という、異色の組み合わせを考案されたいきさつをお聞かせください。
「革靴のお店を始めようと考えた当初からのコンセプトでした。ネットで検索しても出てこないようなブランドだけを扱いたかった。ハノク(韓屋)を選んだ理由も同じです。この世に一つだけの場所にお店を開きたかった。それが理由です。自分で言うのもなんですが、いい判断だったなと思います。静かですし、落ち着いていて。でもこれってお店としてはマイナスにもなるんですよね。ストアトラフィックという面からみると、素直に喜べないんですよ。(笑)」
「パーラー(PARLOUR)」ならではの商品の選定基準はありますか?
「最近オールデン(Alden)というブランドを仕入れていて、私もよく履いています。でもそれだけじゃない。韓国でオールデンを扱っているお店は4カ所あるんでけど、韓国の人が特に好むのは日本ですでに検証された特別な革なんですよね。『パーラー(PARLOUR)』ではあえてその革を仕入れませんでした。なぜかというと、その革からこれといった意味を見出せなかったからです。お客さんがとりわけ好きな革、よく売れる革の人気の陰に隠れてしまっていたものをもっと引き出したいと思っています。」
ハノク(韓屋)という場所もそうですが、「パーラー(PARLOUR)」という空間の中にあるこだわりはなんですか?
「空が見える家。そんなコンセプトです。顔を上げなくても空が見える家、そんな家なんですよね。日当たりが良くて、四方から光が入ってきます。あっちには煙草を吸える席もあって、男性のための空間を創りたかったんです。
このゴミ箱もデンマークで購入したものです。今は少し違うんですけど、カーペットや照明器具もデンマークで購入したものを使っていました。それに加えて、韓国的な要素も取り入れたかったので、チャントッテ(醤油、味噌、漬け物などを入れる壺)も置きました。灰皿はハンガリーで購入したものです。へレンド(Herend)というブランドのものなんですが、ハンガリーのフリーマーケットで手に入れました。ヴァ―シュ(Vass Shoes)の製品を仕入れる際に、お店にもハンガリー感を出したくなって。あの絵画もハンガリーで購入したものです。海外出張の際には、現地で売っているレコードもよく購入しますね。それなりに価値があるものを購入していただくわけですから、やっぱりこちらのお店側としてもそれなりの揃えは必要だと思っています。」
「造園も自分の手で完成させました。チョンノ(鍾路)に位置しているので、やっぱりリンゴの木を植えたいなと思って、パンギョ(板橋)に行き直接購入してきました。芝生も全て手作業で植えたんですけど、全部枯れてしまって(笑)。リンゴの木は一度だけですけど、実がなりました。」
「この建物は1930年、正確には1928年に建設されました。当時ハノク(韓屋)には防空壕があったんですよ。倉庫としては使えなかったので、ワインセラーとして活用していました。保管しておいたワインは知人やお客様へのプレゼントとして使っていました。湿気があるので、ワインの保管にはピッタリなんですよね。」
接客という面でのこだわりはありますか?
「韓国の人って自分の足の正確なサイズを知らない人が多いんです。韓国人の平均は25.4cmで、割と小さい方なんですけど『パーラー(PARLOUR)』でよく売れるのは25.5cmから26cm。自分の足なのに良く把握してないってことです。だから『パーラー(PARLOUR)』で、自分の足についてもっとよく知ってほしかった。正しい靴の履き方、ここでの正しい履き方というのは靴を履いた際にまるで足を包み込むかのような感覚を持っていただくことです。つま先や踵の方がきつかったり、逆に余ったりもせず痛くもなく、ブカブカで脱げることもない。靴を履いた瞬間に、靴を履いているという事実を忘れさせる。そうした良い履き心地とは何なのかをお伝えするため、常に専門的なサービスを心がけています。」
「正しいサイズを測るため、測定器を使用しています。サイズというのは長さだけではありません。足の幅や甲の高さに至るまで正確に測定させていただき、 様々な種類の靴を試していただきます。その上でお客様のライフスタイルに合った靴を選び、お勧めをしています。」
「購入された革靴のお手入れのサービスは受け付けていないんです。そのかわり、お手入れの方法をお伝えしています。自分の靴は自分でお手入れしてくださいとお客様にもよく言っているんです。『その都度お店で』というわけにもいかないので。靴をお持ちになられた場合には、隣で一緒にお手入れをさせていただいています。正しい手入れの仕方を隣で見ていただき、自分のモノにしてほしいという思いがあります。」
Outro
革靴専門店は一見入りづらいイメージがありますが、「パーラー(PARLOUR)」にはお客さんへの配慮と落ち着きがありました。目まぐるしく変化していく流行の中で、絶えず「本物」を追求し、提供しています。自分だけのこだわりを探し求めているなら、「パーラー(PARLOUR)」というお店を通してシンプルで重要な価値を発見できるはずです。「本物」を惜しみなく揃えている「パーラー(PARLOUR)」ならではの素敵な空間と革靴、そしてこだわりを伺えた貴重な時間でした。
INTERVIEW DATE / 2019. 08. 12
INTERVIEWEE / @parlourkr
INTERVIEWER / Won, Wan
文|西村遊戯 写真|西村遊戯
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